学生:研究者紹介コーナー、第一回目は神戸大学分子フォトサイエンスセンターの大久保晋先生を紹介いたします。

 

 

学生:本日は宜しくお願いします。

 

大久保:はいこちらこそお願いします。

 

学生:では早速ですが、大久保先生の研究テーマを教えてもらえますか?

 

大久保:はい。私の研究テーマは「高周波ESRを用いたフラストレーション系物質の研究」です。

 

学生:ESRとはどういうものですか?

 

大久保:ESRとは物質に磁場と電磁波をかけ、物質内部の電子を調べる手法です。古くはESRにはマイクロ波を用いていたのですが、高周波を用いると分解能が上がり感度も良くなるので近年ESRもテラヘルツ領域へと向かっています。

 

 

学生:へーそうなんですか。強磁場ESRは普通のESRとどう違うのでしょうか。

 

大久保:そうですね。従来のESR測定よりも高い分解能、高感度での測定が可能となりますので、これまで観測することが出来なかった物理状態を見ることができるのです。加えて、極低温、圧力下で実験を行うことで、我々の研究対象であるフラストレーション物質の状態の解明をおこなっています。

 

学生:なるほど。そのような極限環境下で実験をおこなっているんですね。

ところでそのフラストレーション物質とはどういうものなんですか?

 

大久保:はい。人間にもフラストレーションってありますよね?あれと同じ意味です。

フラストレーション系物質というのは例えるならば三すくみの状態ですね。

三人の関取がお互いに押し合っているような状態をもっているのです。本来なら誰かが負けて、土俵に倒れてしまう方がエネルギーを使わなくて済む。でも関取の力が完全に均衡していたらお互いに譲らず立ったままです。物理的にこの状態を見てみると、一番安定な状態が決まらないってことなんです。

学生:なるほど。そんな状態が実現する物質があるんですね。

 

大久保:そうなんです。

でも、現実的にはそう簡単にはいかない。例えば一人の関取の足を子供が蹴るとどうなるでしょうか。完全に均衡していたんだから、小さい力でも蹴られた方はたおされてしまいます。これを物理的に解釈すると、とてもマイナーな相互作用が物質の状態を支配していまうということです。つまり普段は無視してきたような力が物質の状態を決めるのです。

 

もちろん、こんな状態というのは常温では発生しません。

ですから物質を普段では考えられないほど冷やしてやらないといけないんです。

 

学生:具体的にはどれくらいですか?

 

大久保:現在は我々の研究室では1.8 Kまで下げることが可能となっています。

私たちの研究ではこのような極限環境下で実験を行うことがとても重要なんです。そうしないとフラストレートした系を見ることが出来ませんから。

 

学生:なるほど。わかりやすい説明ありがとうございます。

ところでそういうフラストレーション物質については将来的にはどのようなものが応用例としてかんがえられているのでしょうか。

 

大久保:応用例ですか。

そうですね。先ほど申し上げたように普段無視してきた力が状態を左右するわけですから、それを用いたスイッチング素子のようなものが実現できるかもしれません。

そして我々の研究におけるこのマイナーな力とは、磁気的な相互作用をもっているため、現在の電子によるスイッチングだけでなく、磁場によるスイッチング素子などが実現できたらおもしろいですね。

 

なるほど。

ありがとうございました。

 

今回は大久保先生の研究紹介をしました。