赤外線基礎知識

1)歴史

 赤外線は1800年イギリスのウィリアム・ハーシェルによって発見された。彼が実験で太陽光をプリズムをつかって分光させていたところ赤色の外側の領域で可視光以上の温度上昇がみられたことがきっかけで発見された。また1850年にはドイツのマセドニオ・メローニが反射、屈折、干渉、偏光、回折の性質が光と同じように赤外線に見られる事を発見した。

2)理論

 赤外線に関する基礎的な知識を簡単にまとめる。

●電磁波

 Ⅹ線、紫外線、可視光、赤外線、マイクロ波と呼ばれるものはまとめて電磁波と呼ばれている。そのうち赤外線は0.83 μm ~ 1000 μmまでのものである。

●赤外線とは

 赤外線は電磁波の一種である。可視光(人間が見ることができる光)の波長は0.36 µmから0.83 µmであり、赤外線は0.83 µmより波長の長い光である。

 赤外線と温度には密接な関係があり、赤外線が持つエネルギーは物体にぶつかった時その一部が吸収され温度上昇を起こす特徴がある。吸収されなかった赤外線は反射したり、透過したりする。また物体は赤外線を吸収する一方で、赤外線を放射している。

 赤外線は波長により少しずつ異なる性質を示す。波長の長さが短いものから近赤外線( 0.83 µm 3µm 、中赤外線( 3 µm 6 µm )、遠赤外線( 6 µm 1000 µm )と分類される。

 近赤外線は無線通信や暗視装置に利用されている。遠赤外線は調理時の加熱や暖房器具に利用されており、我々の生活の中で赤外線技術は広く活用されている。

●赤外線の反射、吸収、透過

 赤外線のエネルギーは物体にぶつかった時に反射、吸収、透過する。これらはエネルギーの総量を1、反射した赤外線が持つエネルギーをa、吸収された赤外線が持つエネルギーをb、透過した赤外線が持つエネルギーをcとすると下のような関係が成り立つ。

 

a + b + c =1

 また赤外線の吸収と放射にもある関係がある。それは物体の赤外線の放射率と吸収率は等しいという関係である。これはキルヒホッフの法則として知られている。これらの現象は大気中の気体分子でも起こっており、赤外線を用いたセンシングでは気体分子の赤外線の透過率を考慮する必要がある。気体分子は特定の周波数の赤外線をよく吸収するがその一方で、ある周波数では赤外線をよく透過するという性質がある。例えば大気中に含まれる水分子は波長約3.0 µm周辺で透過率が著しく低い(吸収率が高い)。また二酸化炭素は約4.0 µmで透過率が低い。このようにいずれかの気体の透過率が低くなっている波長域では正確にセンシングおよび測定ができない。しかし大気の気体分子の透過率がそろって高い値を示す波長域が存在しており、それを大気の窓と呼ぶ。

3)装置、デバイス

 赤外線を利用した装置には通信機や熱源などがあるが、ここでは赤外線を検知するセンサについて詳しく説明する。

●赤外線センサ

 赤外線センサには大きく2つに分類でき、熱型、量子型がある。また量子型は冷却する必要があるため冷却型、熱型は冷却の必要がないので非冷却型とも呼ばれる。

 

 

・熱型赤外線センサ

 

 熱型赤外線センサの基本原理は被検知物体が放射する赤外線を受け取った受光素子(赤外線吸収層の部分)が赤外線を吸収することにより温度上昇を起こす。温度センサでその温度変化読み取り、電気信号に変換することで赤外線を検知している。熱型は後述の量子型赤外線センサに比べ感度の面で劣るが、安価に製作することができるという特徴がある。熱型赤外線センサは更に焦電効果を利用した焦電型、サーモパイルを利用した熱起電力型などがある。焦電効果とは誘電体の温度上昇によって分極が変化し表面に正と負の電荷が現れる現象である。このような性質を持つものを焦電体と呼び、焦電型赤外線センサではPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)LiTaO3(タンタル酸リチウム)が用いられる。熱起電力型はゼーベック効果という接触している異なる材料の間に温度差がある時、起電力を生じる現象を利用したものである。熱起電力型ではこのような性質を持つサーモパイルを利用している。このほかに導電型、熱膨張型などの方式もある。熱型赤外線センサは車載用の暗視装置や人体検知センサとして利用される。

・量子型赤外線センサ

 

 量子型赤外線センサの基本原理は、赤外線を光子としてとらえ、電気信号に変換している。また、量子型赤外線センサは熱型と比べ高感度、応答速度が高いが使用時には冷却をする必要があるため高価である。量子型赤外線センサは、真性方式や外因性方式などに分類される。真性方式は、エネルギーが低い領域(価電子帯)にある電子に赤外線があたり、電子がもつエネルギーが増加することでエネルギーが高い領域(伝導帯)へと移動する。その移動を利用して赤外線の検知を行う。この方式では、InSb(インジウムアンチモン)やHgCdTe(水銀カドミウムテルル)等が用いられる。外因性方式では、検出方法は真性方式と同じだが、不純物を材料に混ぜることで生じるエネルギー差の変化を利用して赤外線の検知を行う。この方式では、Siに不純物としてInGaを混ぜたもの等が用いられる。量子型赤外線センサは高感度であることから宇宙用途として利用されている。例えば人工衛星からの環境計測や気象観測用に用いられる。

4)最先端研究

 ここでは近年進められてきている赤外線に関する研究を紹介する。

 

●IRPSD

 赤外線センサの最先端研究に赤外線センサを応用したIRPSDと呼ばれる小規模アレイセンサの研究が立命館大学で行われている。この装置の特徴は複数の熱型赤外線センサを2次元のアレイ状に接続することでデジタル画像処理を行わずに熱源の面積、位置、リアルタイムの動きを検知することが出来るセンサである。IRPSDの構成は1つの画素に2つの温度センサをもっており、行方向と列方向にそれぞれ直列につながっている。各行と列の出力の加算が出力として検出されることで熱源の情報を得ることが出来る。またセンサの単体の出力を大きくするため増幅器を付けることで感度上昇を図っている。現在は人体検知を目標として性能向上に向けて研究を進めている。

5)赤外線に関連するニュース

 赤外線技術は我々にとって身近なものになってきている。ここでは赤外線技術が話題になった出来事を紹介する。

 

●赤外線センサが活躍したニュース

 2013年ボストンマラソン爆破事件では、逃走した犯人の検挙に赤外線技術が活躍した。

 この事件は、2013415日ボストンマラソン競技中に起きた爆破テロ事件で多くの方が被害を受けた。爆破後逃走した犯人を警察は、住民の通報により場所を特定、さらに赤外線カメラ搭載のヘリコプターによりシートカバーに覆われたボートに身を潜めていることを確認した。その後、犯人は拘束された。このように事件の解決にも赤外線技術は活躍している。